和語の里(Wagonosato) - 日本語・データ化・考察 -

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文章吟味の"推敲(すいこう)"。この字は"猫犬"でも"白青"でも良かった説。日本語に取り入れる際の漢字2字が気になる故事成語。【表意喪失】

 

▼「推敲(すいこう)」の構成

 「推敲(すいこう)」は「文章を吟味して練りなおす」という意味で用いられています。*1
 故事成語ですから、「推(すい)」と「敲(こう)」という漢字そのものの意味からは、「文章を吟味して練りなおす」という意味は導くことはできません。


 しかし、同じ故事成語でも意味の読み取りやすさの違いがあります。


<<故事成語 意味の読み取りやすさ>>
【A】字面だけでそれなりに故事成語としての意味を感じ取れるもの
【B】字面だけでは 故事成語としての意味を まったく感じ取れないもの

 「推敲」の場合は後者【B】になります。
 「推」「敲」の字面だけでは 「故事成語としての意味」を まったく感じ取れません。

 漢字の意味が気になる人のために、「推」「敲」の漢字としての意味を載せておきます。

【「推」の中国語の意味】参考:白水社 中国語辞典 
・押す、推薦する
・粉にする意味の「ひく」
・狩る
・切る、削る
・辞退する、譲る、遠慮する
・口実を設ける(言い訳)、かこつける、責任転嫁する
・(予定を変えて)後の時間(日にち)にする

 

【「敲」の中国語の意味】参考:白水社 中国語辞典 
・指や棒状の物でコツコツと小刻みに机などを叩く(打ち鳴らす)
・金品をゆすり取る

 

 

▼「推敲(すいこう)」の由来

 デジタル大辞泉「すいこう【推敲】 」で由来を調べてみます。

《唐の詩人賈島 (かとう) が、「僧は推す月下の門」という自作の詩句について、「推す」を「敲 (たた) く」とすべきかどうか思い迷ったすえ、韓愈 (かんゆ) に問うて、「敲」の字に改めたという故事から》

 と書かれています。
※韓愈 (かんゆ)=中国の唐代の文人で政治家。出典:精選版 日本国語大辞典「かんゆ【韓愈】」。

 

▽由来から考えられること

 推す or 敲く
   ↑
 このどちらで書き表すか迷い考えるというのが由来です。
 「どちらで(書くか)迷う」という部分から「文章を吟味して練りなおす」という故事成語で使われています。

 ということは「何と何で迷うか」の「何と何」の部分は、今回の故事成語の意味としては関係のない話なのです。
 「推す」と「敲く」という迷う対象は故事成語の意味と結びつかないのです。そのため、推・敲の各字の意味から故事成語の用法は推測ができません。

 しかし、その故事成語の意味と関係のない「推」「敲」が、使用する2字として選ばれて伝わってしまったため、【推敲(すいこう)=文章吟味】で使われている現状です。

 

▽迷う対象が違っていたら・・・

 さきほど 「推す」「敲く」でなくても文章吟味の意味が成り立つと説明しました。
 誰かがA・Bどっちにするか迷ったという話であれば、そのABの単語を漢字2文字にすれば、「すいこう(推敲)」という故事成語と同じ由来になってしまうのです。
 
 例えば、唐の詩人賈島が小説のような物語を書いていたとします。そこで どのように表現しようか迷うことがあったとします。
【A】空の色を「青」とするか「白」とするかか
【B】登場させる動物の種類を「猫(貓)」とするか「犬」にするか

 

【A】で迷ったとしたら、「青白(せいはく)」という字と音で「文章吟味」の意味を持つ故事成語が生まれた可能性があったのです。
【B】で迷い吟味していたら、「猫犬(びょうけん)」という字と音で「文章吟味」の意味を持つ故事成語が生まれた可能性があったのです。

 

▽推敲というコトバを使う言語環境的なリスク

 "推敲(すいこう)"などの故事成語にありがちな日本人には馴染みの薄い漢字「敲」などが使われているコトバ。
「文章吟味して練ることを表すのに、推敲しかない!」
 と日本人は考えがちで、ワザワザ普段使いしない漢字を覚え、表意文字としての機能を無視した故事成語としての意味を覚えているという現状です。

 こういった状況も、由来を知るとバカバカしくなりますね。
 既存の「練り上げ」などのコトバで表現したり、和語で「書き練る」「思い練る」などの連語をつくったり、漢語にするにしても馴染みのある漢字を用いて「深」てしまったほうが、字面でわかるし日本人のためにもなると考えています。
※もちろん、「今すぐ禁止しろ」というわけでもないです。

 現在のように、馴染みない漢字を用いた故事成語や熟語だらけの日本になったのは、昔の日本人が「中国文化崇拝・漢文崇拝」していて、故事から ヤミクモに取り入れていたからでしょう。

 昔からある故事成語だからといって、使ったほうがいいかどうかなども考えていきたいです。

 

 

▽賈島だからこその「何度も練り直すこと」の意味があるのではという反論

 故事成語を知る辞典「推敲」の[解説] ❶にて【賈島は、非常に苦労をして一つの詩を作り上げることで知られた詩人。ある句ができあがるまでに三年もかかり、できあがったときには涙を流した、という話もあります。】と書かれています。

   ↑
 つまり、故事成語「推敲」が、「何度も練り直すこと」の意味として使われているのは、
 【賈島だからこそだ! だから、賈島のエピソードにでてくる「推」「敲」の二文字でなくてはいけない!】
 という主張をしたい人もいるでしょう。
 それ自体は間違ってはいないです。
 
 【推敲というコトバを使う言語環境的なリスク】で語ったように、「何度も練り直す」という意味を表すために、日本人に馴染みのない漢字や字面で判断できない意味を覚える負担を問題視しているのです。
 また、この故事成語を現代のマニアックな界隈のネットスラングのように、一部の人が使うコトバとして存在していたのであれば問題ありません。
 たとえば、唐の詩人のファン同士で使うコトバ(スラング)であれば、問題ないのです。

 しかし…
【「字面での判断が難しい」・「使われる漢字が馴染み薄い」、これら2つの要素を持った故事成語を一般用語として使うというのが問題である】
 と考えています。

 

【記事編集用Link】
https://blog.hatena.ne.jp/peaceheart/onbin.hateblo.jp/edit?entry=26006613781369274
【KEYWORD ZONE】かんじがくしゅう、カンジガクシュウ、漢字学習、kanjigakushuu、kanjigakushu、kanzigakusyuu、kanzigakusyu
すいこう、スイコウ、suikou、suiko、遂行、水耕、推敲、水行、翠香、推考、水光、水工、水高、tng0suikou
つっこみ、ツッコミ、何でも良かった、なんの字でも良かった、
こじせいご、こしせいこ、コジセイゴ、kojiseigo、故事成語

*1:【各辞書ごとの意味】
故事成語を知る辞典「詩や文章を作る際、字句や表現を何度も練り直すこと」
精選版 日本国語大辞典「詩や文章を作るにあたって、その字句や表現をよく練ったり練り直したりすること」
デジタル大辞泉小学館)「詩文の字句や文章を十分に吟味して練りなおすこと」