和語の里(Wagonosato) - 日本語・データ化・考察 -

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【表意喪失】「適当・貴様・御前」など。日本語の漢字は表意文字と言われているが、それが適応されていない用法【和語の里作用語】

 

▼「表意喪失」とは?

 「表意喪失」は「表意文字」に関係する言葉です。簡潔※に表すと、漢字は「表意文字」として扱われますが、それにも関わらず表意をなしていない状態を指します

※詳しくはページ下部

▽表意喪失した用法があるコトバの具体例

 有名かつ日常で目にする表意喪失した言葉は下のようなものがあります。

・「適当(テキトウ・テキトー)」
・「貴様(キサマ)」
・「御前(オマエ)」
故事成語全般「推敲(すいこう)」「蛇足(だそく)」など

 

▽「適当(テキトウ・テキトー)」

 たとえば、上にあげた「適当」ですが、元々の意味は「適する・適切・ちょうどよい・程よく」などの意味です
 とうぜん、「漢字という表意文字としての機能が働いている状態」なら、「適切」などの意味で使われることが多くなるはずです。
 しかし、日本人の大多数が「適当」というコトバを「なんとなく・荒く・雑に・不丁寧に」という意味を込めて使います。

 この場合は、「漢字という表意文字としての機能が働いていない状態」と言えます。
 そして コレを【「表意喪失」した用法】と 和語の里では呼んでいます。

 

▽【注意】言葉そのものが表意喪失ではなく、大多数にとって表意喪失

 次の例である「貴様(キサマ)」などについて説明する前に、大事な注意をしておきます。
 「適当(テキトウ)」が漢字の表意どおり使われていないことが"多い"からといって、「表意文字として使っている"適切に・ちょうどよく"などの意味で使うのはオカシイ・ダメ」と言っているわけではありません。

 「適当」に関しては、あくまでも表意喪失の"傾向にある"ということです。
 "傾向にある"←コレが大事!

 ちなみに、漢字の意味を考えて話す人・書く人ほど、「適当」を「なんとなく・荒く・雑に・不丁寧に」という意味ではなく、「適する・適切・ちょうどよい・程よく」などの意味で使う人が多く感じます
 また、商品の説明書・新聞・利用規約などの文書では、今でも表意喪失した「適当」ではなく、原義の意味で「適当」を使っていることが多いです。

 

▽キサマ(貴様)・オマエ(御前)

・キサマ(貴様)
・オマエ(御前)
   ↑
 この2つのコトバも表意喪失した用法です。中学生レベルの漢字知識と漢字の表意を見れば分かりますが、明らかに「敬意を表す漢字」が使われています。
 にもかかわらず、敬意の逆の表現となってしまっています。

 現代の「キサマ(貴様)」という"2字熟語"は「侮蔑表現」と捉えられるのが普通です。対人においては、表意喪失した用法しか使えない状況になっています。
※仮に敬意のある「キサマ」を用いたいのであれば、相手と それなりに親しい関係・良好な関係で、「事前に敬意を持って"キサマ"と呼ぶけどいい?」と聞いて、相手が「いいよ。」と言ってくれたときにしか「敬意のキサマ」は使えません。

 

 

▽【注意】漢字そのものが表意喪失ではなく、熟語の1用法や故事成語において表意喪失

 2字熟語「貴様」が表意喪失しているといって、「貴・様」各漢字1文字が表意喪失しているわけではありません。
 当たり前ですよね。今でも「貴重・貴殿・高貴」などは「貴」を表意文字として使っています。
※「様」についてはページ下部で説明。

 

故事成語全般「推敲(すいこう)・蛇足(だそく)」など

 一見すると、漢字2つの意味を組み合わせた2字熟語に見えるが、故事成語である場合があります。
 たとえば、「推敲(すいこう)」という2文字の故事成語があります。

【"推敲"】文章を吟味して練りなおす
※出典:デジタル大辞泉小学館)。漢字そのものからの意味ではなく慣用句としての用法。

 という意味で用いられています。しかし、「推(すい)」と「敲(こう)」から「文章を吟味して練りなおす」という意味は導くことはできません。
※各漢字の意味は【文章吟味の"推敲(すいこう)"。この字は"猫犬"でも"白青"でも良かった説。】にて。

 

 あくまでも、物語上などが由来になった意味・用法です。
【推敲】であれば、《唐の詩人賈島 (かとう) が、「僧は推す月下の門」という自作の詩句について、「推す」を「敲 (たた) く」とすべきかどうか思い迷ったすえ、韓愈 (かんゆ) に問うて、「敲」の字に改めたという故事から》という由来から「文章を吟味して練りなおす」の意味で使われています。

 由来を知ればわかると思いますが、「推」の字も「敲」の字の表意と意味は関係ありません。

 

 これも、表意喪失した用法と言えるでしょう。他に有名な故事成語「矛盾(むじゅん)」などがあります。*1

 

▼オマケ:「様」について

 漢字ペディア「様」を見ると意味④に【名前や代名詞などの下に添えて敬意を表す語】とあります。
 たしかに、「アナタ様・神様・仏様・お客様」においての「様(さま)」は敬意の意味で使われていますが、これは「様」という字が そういった敬意を持つかは疑問です※。
 

 

 ※これは漢字1文字の意味というよりも、日本語の中での慣用的な意味ではないかと推測します。
 というのも「様」は、「様子・様式・模様」などのように敬意ではなく、「ありさま・かたち・図がら・きまった形式」などが漢字の意味ではないかと考えられます。
 「様子・様式・模様」などは漢語表現ですから、和語の「アナタ様・神様(かみさま)・仏様(ほとけさま)」などよりは、漢字輸入元の意味に近い使われ方をしている確率が高いです。
 実際に白水社 中国語辞典で中国語「様(样・樣)」には敬意の意味はあるのかを調べてみます。

▽中国語「様(样・樣)」には敬意の意味はあるのか?

 白水社 中国語辞典「样(樣) ピンインyàng」の1〜4の意味を抜き出すと下の通りです。

1付属形態素 (〜儿)形,さま,ふう,格好,様子.⇒模样 múyàng ,花样 huāyàng ,这样 zhèyàng ,那样 nàyàng ,怎样 zěnyàng ,什么样 shén・meyàng ,同样 tóngyàng ,不像样 bù xiàngyàng ,多样化 duōyànghuà .
2付属形態素 (〜儿)サンプル,見本,型,手本.⇒榜样 bǎngyàng ,货样 huòyàng .
3量詞 (〜儿)(事物の種類の数を数える)種,種類.⇒一样 yīyàng ,两样 liǎngyàng 
4付属形態素 (〜儿)形,様子,態度.

   ↑
 この中に「アナタ様・神様・仏様・お客様」の「様」と考えられるものは見当たりません。
 これだけで考えると、漢字ペディアが「様」という漢字の意味に「名前や代名詞などの下に添えて敬意を表す語」という意味を加えるのは 少し危険なのかなあと感じます。

 

kw:ひょういそうしつ、ひよういそうしつ、ヒョウイソウシツ、"憑依喪失"、"表意喪失"、hyouisousitu、非用意喪失
画数と漢字。"てきとう"を"適当"の意味で使っても"テキトー"になる現象
"表意文字の機能"、"表意文字の機能の喪失"、"表意文字として使わない"、"表意文字として使っていない"
ひょうごもじ、ひようこもし、費用蒲生市、ヒョウゴモジ、hyougomoji、表語文字、ひょうご、ひようこ、費用子、ヒョウゴ、hyougo、表語

デジタル大辞泉「ひょうごもじ【表語文字】」

表意文字のうち、一字が一語を表す文字。漢字の類。単語文字。

 

*1:「矛盾」は特殊で、ギリギリ表意文字といえます。なぜかというと、「ほこ(矛)」と「たて(盾)」が由来の意味として考えて、「矛盾した性質」を連想できるため、故事成語でありながら、表意文字として機能してるといえます。